AIで仕事は速くなった。でも、"考える力"は?
さっそくですが、最近の悩みから書きはじめます。
筆者(中山)は普段、コードを書くのがメインの仕事です。昨年あたりから、そのコーディングをはじめ、文章の下書きや調べ物、考えの整理まで、いろいろな場面にAIを組み込むようになりました。たしかに速くなったし、ラクになった。ところが最近、ふとした瞬間に 「あれ、自分で一から考える力、落ちてないかな?」 と感じるようになったのです。
AIに聞けば答えらしきものがすぐ出てくるので、自分の頭でうんうん唸る時間が、いつの間にかごっそり減っている。この違和感が気のせいなのか。今回はそのあたりを、少し立ち止まって考えてみます。
その違和感、実は研究でも指摘されている
気になって調べてみると、まさに同じ問題を扱った研究がいくつも出てきました。「AIが人間の認知機能に与える"ダメージ"」を解説した記事にまとまっていたので、そこからいくつか紹介します。
- カーネギーメロン大学の実験 — 354人に計算問題を解いてもらい、途中までAIの助けを借りたグループと、そうでないグループを比較。すると、わずか10分ほどAIに頼っただけで、その後の計算力と"粘り強さ"が目に見えて落ちたという結果に。
- Anthropic社の開発者研究 — AIツールを使ったグループは作業こそ速く終わったものの、「内容をどれだけ理解できているか」のテストでは正答率50%。使わなかったグループ(67%)を下回っていました。速いけれど、身についていない、というわけです。
これらが示しているのは、「考える作業をAIに"外注"しすぎると、自分の思考力そのものが鈍っていく」 という、ちょっと耳の痛い話。専門的には 「認知の外部化」 と呼ばれたりします。電卓に頼りすぎて暗算が苦手になる、カーナビに頼りすぎて道を覚えなくなる──あの感覚の、AI版だと思うとわかりやすいかもしれません。
でも、「AIが悪い」という話ではない
ここで大事なのは、AIそのものが人を"怠惰にする"わけではないということ。同じ研究の流れで、まったく逆の結果も報告されています。
- ハーバード大学の物理の授業 — AIを家庭教師役にしたグループの成績が伸びた。ただしこのAIは、答えをすぐには教えず、「じゃあ次はどう考える?」と段階的に思考を促す設計になっていました。
- インドの大学の「ソクラテス式AI」 — あえて答えを与えず、問いを返してくる。学生の質問の質が「動きません」から「この場合はどう処理すべき?」へと、目に見えて深くなっていったそうです。
つまり同じAIでも、
同じ道具でも、使い方しだいで毒にも薬にもなる。元記事では、古いことわざを借りてこう表現していました──「魚を与えるのではなく、釣り方を教えよ」。AIに魚(=答え)だけをもらい続けると、いつか自分では釣れなくなる、というわけです。
私がやってみた対策 ── まず「紙に書き出す」
理屈はわかったが、実際どうするか。筆者が最近、意識してやっているのは、シンプルなことです。
AIに聞く前に、まず紙に自分の考えを書き出す。
新しい企画やちょっと込み入った相談ごとがあると、以前はほぼ反射的にAIへ投げていました。でも今は、その前に数分だけ、手を動かして紙に殴り書きする時間を取るようにしています。「何がわからないのか」「自分はどう思っているのか」「引っかかっているのはどこか」。箇条書きでも、矢印でぐちゃぐちゃでも構いません。
やってみて実感したのは、手を動かすと、止まっていた頭が動き出すということ。書いているうちに考えが整理されて、「本当に聞きたいのはここだ」とはっきりしてくる。質問がはっきりすれば、返ってくるAIの答えも的確になります。
デジタルのメモアプリでも良いのですが、個人的には紙とペンが合っています。変換も予測候補も出てこない、ただ手を動かすだけの時間。この"不便さ"が、かえって頭を使わせてくれる気がしています。
明日からできる、AIを「考える相棒」にする工夫
紙に書く以外にも、普段のAIの使い方で意識していることをいくつか挙げておきます。
- 聞く前に、自分の"仮説"を一言だけ書く — 「たぶん答えはAだと思う。なぜなら…」まで自分で書いてから聞く。丸投げより頭を使うし、AIの答えと自分の考えを"比べる"視点が生まれます。
- AIに「反対意見」を言わせる — 出てきた答えに、続けて 「この案の弱点や、反対の立場からの意見も挙げて」 と頼む。AIをイエスマンではなく、あえて異を唱える"壁打ち相手"にすると、思考が一段深まります。
- あえて"手で考える"時間を残す — すべてをAIに任せず、要所は自分で考える。ラクさを少しだけ我慢するのが、思考力を錆びさせないコツです。
いずれも、AIに「答えをもらう」から、AIと「一緒に考える」へという発想の転換がベースにあります。
まとめ ── 効率化は悪くない。でも思考力は"使わないと錆びる"
念のため書いておくと、業務の効率化そのものは良いことです。AIで浮いた時間を、より価値のある仕事や考える作業に回せるなら、それがいちばん。ここを否定する話ではありません。
言いたいのは、考える力は、筋肉と同じで使わないと衰えるということです。AIという便利な道具を使う今だからこそ、「どこは任せて、どこは自分で考えるか」を意識的に選びたい。そこの線引きが、これから地味に効いてくる気がしています。
次にAIを開くとき、その前の数分だけ紙とペンを手に取ってみる。まずはそこから始めてみるのはいかがでしょうか?
ご意見・ご質問、あるいは「私はこんな工夫をしている」という話があれば、ぜひシステムチームまでお聞かせください。