その成果物、そのまま出して大丈夫?
「この広告、なんだかAIっぽいな」——最近、そう感じることが増えていないでしょうか。
駅や街なかのポスター、Web広告のバナー、商品のパッケージ。生成AIで作られた画像は、この1年ほどで一気に身の回りに増えました。色鮮やかでリアル、パッと見はよくできている。それなのに、見た瞬間になんとなく「AIだな」とわかってしまう。
今回はこの「わかってしまう」という現象を入口に、AIが作ったものを、そのまま世に出すことの落とし穴について考えてみます。
先に断っておくと、これは「AIは下手だから使うな」という話ではありません。むしろ逆で、どこまでAIに任せて、どこから人が引き取るかという、私たち全員に関わる話です。
気づかれた相手は、何を思うか
まず、こう考えてみてください。気づかれること自体は、そんなに問題なのか?
問題なのは、気づいた相手が次に何を思うかです。「ああ、AIで作ったんだな」の次に浮かぶのは、多くの場合 「……手を抜いたのかな」 ではないでしょうか。
安く早く作れたとしても、手抜きと受け取られてしまえば信用が傷つきます。削減したコスト以上の代償を払うことにもなりかねません。実際、AIで作った広告を出したことで批判を受け、取り下げた企業もあります。
そして、これはデザインだけの話ではありません。中身の薄い提案書、どこかで見たような求人原稿、当たり障りのない挨拶文。「AIに書かせただけだな」と伝わってしまった時点で、こちらの本気度も一緒に疑われます。相手は、思っている以上によく見ています。
では、なぜ人は「AIっぽさ」に気づいてしまうのか。理由は大きく2つあります。
理由その1:細部が破綻している
ひとつは、単純に粗が残っていることです。
AIが作った画像を見て、うまく説明できないけれど落ち着かない——この感覚には 「不気味の谷」 という名前がついています。人は、対象が"本物にかなり近い"ところまで来ると、わずかな不自然さに強い違和感を覚えるという現象です。似ていないうちは気にならないのに、そっくりになるほど粗が目立つ。
具体的には、こういう部分に出ます。
- 手の形(指の本数や関節がおかしい)
- 光の反射や影(当たり方のつじつまが合っていない)
- 文字の崩れ(よく見ると読めない字が混ざっている)
パッと見は完璧なのに、細部だけが破綻している。人間の目は、この"小さなズレ"を驚くほど正確に見つけてしまいます。
こちらは、よく見れば自分でも気づける問題です。厄介なのは、次の理由のほうです。
理由その2:何を伝えたいかが、決まっていない
2026年7月ごろ、生成AIで作られた商品ポップがスーパーの売り場に並び、話題になったことがありました。色鮮やかで、イラストもリアル。手書きのものよりずっと"作り込まれて"います。ところが寄せられた声の多くは、「見にくい」「以前の紙に戻してほしい」 というものでした。
理由はシンプルです。どのポップも派手に目立とうとした結果、売り場全体がうるさくなり、かえって何も目に入ってこなくなったのです。
ここが今回いちばんお伝えしたいところです。デザインとは、きれいな絵を用意することではなく、「誰に、何を、どの順番で伝えるか」を決める仕事です。値段を大きくするのか、産地を目立たせるのか、あえて情報を減らすのか。その判断には、売り場の状況やお客さんの動きを知っている人の経験が要ります。
AIは「おいしそうなトマトのポップを作って」と言えば、それらしいものを一瞬で出してくれます。でも、「この売り場で、今日、何を優先すべきか」までは判断できません。指示していないからです。見た目は作れても、設計は代わりにやってくれない。
ちなみに、このポップには「これはこれでアリ」という声もありました。とにかく目を引くことが目的なら、あの派手さは成立する、という見方です。つまり狙いがはっきりしていれば、答えは変わる。裏を返せば、その狙いを決めるのは人間の仕事だということです。
そしてこれは、資料や原稿でもまったく同じです。「何を伝えたいか」が決まっていない指示からは、それらしいだけの成果物しか返ってきません。
気づかれるだけでは、済まないことも
ここまでは「印象が悪い」という話でした。ですが、実害が出た例もあります。
- マクドナルド(2024年8月) — AIで生成したキャラクターを使った広告に、「不自然」「創作性が感じられない」といった批判が集まりました。
- サクラクレパスの海外子会社(2025年12月) — スペインのマンガイベントで展示したAI製の販促ポスターが問題視されました。理由は、自社の商品やロゴの描写が正確でなかったこと。撤去と謝罪に至っています。
- ウテナ(2026年5月) — 公開したAI生成のPR動画に対し、登場人物やロゴが 『美少女戦士セーラームーン』に似ているとの指摘を受け、公開から数日で謝罪・撤去に至りました。
2つ目は、自社の商品やロゴの描写が不正確だったケース。これは、絵の上手い下手ではなく、出す前に人が確認していれば防げた類の問題です。社内ガイドラインの ③ 著作権・利用規約を確認する とあわせて、AIが作ったものは事実関係から疑ってかかる必要があります。
考えさせられるのは3つ目です。ウテナは公開前に、外部の専門家によるリーガルチェックを受けていたと説明しています。既存の作品をAIに学習させたわけでもない、と。つまり手続きとしては、きちんと確認していたのです。
それでも受け入れられなかったのは、「法的に問題ないこと」と「受け取る人がどう感じるか」は別だからです。似ていると感じた人にとっては、権利関係がどうなっているかは関係ありません。チェックを通ったかどうかではなく、これを世に出していいのかを最後に判断する——その一手間が要る、ということだと思います。
結論:AIの成果物を「完成品」として使わない
ここまでの話は、結局この一点に集約されます。社内ガイドラインの ② AIの出力を「完成品」として使わない です。
AIは、たたき台を作るのが抜群にうまい道具です。案を10個出す、下書きを一気に書く、構成を組む——ここは遠慮なく任せていい。問題は、そこで手を止めて、そのまま外に出してしまうことにあります。
そして、これはデザインだけの話ではありません。
- 見積や資料の数字 — AIが計算した金額を、検算せずに出していないか
- 求人原稿やメール — 事実と違う条件、相手に合っていない言い回しが混ざっていないか
- 調べ物の結果 — もっともらしい説明が、実は間違っていないか(出典を確認しましょう)
- 請求書や経費のチェック — AIが「問題なし」と言ったから、で済ませていないか
どれも、最後に人が目を通していれば防げるものばかりです。逆に言えば、そこさえ押さえておけば、AIは安心して使い倒せます。
出す前の5つの確認
社外や、社内でも多くの人の目に触れるものを出す前に、ざっと確認してみてください。
- 文字は崩れていないか — 画像内の文字はとくに要注意
- 自社の商品名・ロゴ・情報は正確か — 事実と違わないか
- 見覚えのある作品に似ていないか — 似ていると感じたら使わない
- これは誰に、何を伝えるものか — 目立たせる場所は選べているか
- 迷ったら、詳しい人に見てもらったか — デザインなら制作の担当者、数字なら経理、と一声かける
とくに5つ目。専門の人が一目見れば数秒でわかることが、けっこうあります。「AIで作ったので念のため見てもらえますか」と聞くだけで、多くのトラブルは手前で止まります。
まとめ
生成AIは、誰でも短時間で"それらしいもの"を作れる、とても強力な道具です。ただ、"それらしい"と"仕事で使える"のあいだには、まだ距離があります。その距離を埋めるのが、私たち人間の目と経験です。
AIが作ったものは、あくまでたたき台。最後に手を入れて、責任を持って世に出すのは人間の役割です。最終責任は、常に人間にあります。
次にAIで何かを作ったら、送信する前に一度だけ、受け取る相手の立場で眺めてみてください。それだけで、「なんかAIっぽい」は、かなり減らせるはずです。
この記事も、AIと一緒に書きました
最後にひとつ。ここまで書いてきたこの記事も、AIと壁打ちしながら執筆しました。テーマの相談にも、構成にも、下書きにも付き合ってもらっています。
ただ、テーマを決めたのも、記事の流れを決めたのも、最終的な微調整をしたのも、私(浜名)です。AIが最初に出してきた原稿は、それらしくはあったものの、伝えたいことがぶれていました。まさに今回書いたとおりの直し方をした、というわけです。
道具として使い倒しつつ、最後は自分で引き取る。そのくらいの距離感がちょうどいいのだと思います。
ご意見・ご質問あれば、システムチームまでお気軽にお声がけください。